見えてきた市場法抜本見直しの方向

市場法の抜本的見直しの内容が明らかになりつつあります。

6月〜8月にかけて各地でヒアリング(業界との意見交流)が行われており、現在、井上食品流通局長や宮浦流通課長、武田市場室長など農水省の幹部が精力的に全国を回っています。

当初は見直しの内容はほぼ固まっていて、ヒアリングは形つくりだという声もあったのですが(その声の中に私も入っていましたが)、どうやら真面目な意見交換の場が行われているようです。その証の一つが、青果や水産の全国団体ヒアリングが業界紙等の取材陣を閉め出し非公開で行われていることです。業界の本音を聞き、それに踏み込んで答えるためには余計な第三者は入らない方がいいと、私も思います。

そうしたなかで、5月23日の、井上食料産業局長が直接、築地市場買参組合総会で、一時間近くオープンで行った講演を聴きました。これは講演ですから、業界との意見交換ではありませんし、具体化はこれからだと繰り返し言っていますが、市場法のどの部分を検討していくのかはハッキリ述べています。

この局長講演をもとに、卸売市場法のどこが論議の対象になっているのか、国の問題意識はどこにあるのかをみていきます。

 

市場法の主な規制とは何か

井上局長は「合理的でない規制の廃止」を具体化するためには、まず現行卸売市場法にはどのような規制が規定されているのかをハッキリさせなければならない、として①取引方法、②第三者販売・直荷、③商物分離、④差別的取り扱い・受託拒否の禁止、⑤決済制度、の五点をあげて、①〜③は廃止を含む見直しの対象、④〜⑤は残す意義があると述べています。

さらに井上局長は、卸売市場法の見直しと同時に、小売・市場外流通に対する支援措置等も具体化すると述べています。

 

これらはいずれも昨年来の論議で予想されていた範囲内ですが、公式にはハッキリ出されていなかった内容です。

農水省が5月下旬にこうした方向を明示したことで、各団体代表や有識者を集めた「‥‥検討会」方式がなくなり、従来も実質的に方向を策定していた農水省部局が直接各地に出向き、全国の業界団体を対象に意見交換を行うことになったのですが、従来の審議会方式のセレモニーよりははるかに有益でしょう。それだけに6月〜8月の意見交換はかなり重要なものになります。

 

市場業界にとって予想されていた範囲内とはいえ、それでも「来るべきモノが来た」時代を迎えています。

「取引方法」条文は削除か?       

せりと相対、受託と買付についてはすでに規制緩和されているのですが、それでも卸売市場法第三五条「取引の方法」の規定は残っていますし、この規制を残すのか、改正するのか、廃止するのかの論議がなされます。

 

JA全農直販比率55% 5千5百億円目標  

周知のとおりJA全農は3月の総代会で取扱高約1兆円を「卸売市場経由主体の事業から‥直接販売を主体とした事業へ転換」するとして55%、5500億円を目指すことを決定しました。

 このなかに市場との予約相対取引が入っているのですが、直販比率の拡大によって委託出荷と予約相対取引がどうなるのか、JA全農は卸売市場との取引についてパートナー市場の選別と予約相対取引の推進、そのための卸売会社への出資、の方針を出しています。

全農は買取集荷・委託出荷?

この直販比率を増やすという新しい方針によって、JA全農は、農協から買い取った農産物を、今まで通り卸売市場に委託出荷できるのか、という問題が生じます。

法的には農協から買い取った農産物を卸売市場に委託出荷しても、それは販売方法の一つですから直販の数字に計上されることになるでしょう。

 

考え方としては、生産者から委託されたものでなく買い取ったものを、卸売市場に売値価格はお任せしますと無条件委託することは難しいと思いますが、実態としては指し値が機能していますので出来ないことではないと思います。

 

そんな面倒なことをしないで、買い取った商品は自分で値を付けて相対で出荷すればいいとも思うのですが、そうすると委託手数料の野菜8.5%、果実7%を支払う理由がなくなりますし、出荷奨励金も不要になります。

 

出荷奨励金が生産者に還元されていないという意見は今までもありました。市場法見直しの趣旨は「生産者の所得向上」ですが、出荷奨励金を廃止することが、農家所得の向上にそのまま結びつくわけではありません。

 

卸売市場の否定でなく再活用

市場法の取引方法の条文を削除すれば規制がなくなり、自由な取引が増えて農家の所得も増えるというバラ色の図式は単純に出てきません。

 

農家所得の向上をメインにするのではなく、農家にとって、小売にとって有利なサプライチェーンマネジメント(SCM)を構築することが必要ではないでしょうか。

 

小売の価格競争は今後も続くでしょうし、そのコーディネート機能を果たしていた卸売市場を生産者・出荷者と小売業者がさらに関与できてSCMとして卸売市場活用を図ることが重要だろうと思いますし、その活用には「卸売市場の活性化」ではなく市場外の流通企業を含めた「卸売市場の再評価と再活用」がポイントになるのではないでしょうか。

 

その推進に障害となる規制を廃止することが課題となっています。

取引の方法が見直されると言うことは、市場内で言えば卸、仲卸、買参人のあり方が見直されると言うことですから、市場施設の整備も見直されることになるでしょうし、さらには関連店舗も「市場買出人の利便性」という当初の目的を失いますので、細かく業種別の店舗数を決めていた規定の見直しや、さらには「市場開放施設」の位置付けもまったく違ってくることになるでしょう。