築地の亀裂決定的に  罪深い小島私案

卸売市場法の「抜本的見直し」によって卸売市場の社会的存在意義そのものが問われている時に、市場流通の基幹市場としての歴史的役割を果たしてきた東京築地市場の行方が一層不透明となり、築地市場業界の亀裂が決定的となる最悪の事態となりつつある。その直接のきっかけが市場PT座長の小島私案による築地改修案である。

4月8日の市場問題PTの小島座長、菊森、竹内委員、3名による築地市場改修案と豊洲移転案(小島私案)の説明会を皮切りに11日には新市場建設協議会が、そして18日には業界有志による「より良い市場をつくる集い」と「築地女将さん会主催シンポジウム」が同一会場で開かれるなど小島私案が豊洲とのコストを中心にした比較を展開、築地市場改修案も十分に可能であると言明したことで、豊洲移転がいつになるのかという移転時期の問題から、現在地か移転かという数十年前の論議にタイムスリップしたかのような事態に陥りつつある。

 

4月8日の小島私案説明会は築地市場主要5団体が不参加となったこともあって築地再整備を求める業者が中心となったが、この会議は小島座長が「築地海舟が成功するための条件はただ一つ皆さんの気持ちがどれだけ強いかです」と述べたこともあって会場は異様な雰囲気に盛り上がった。

 

次に築地市場協会の要請で昨年9月以来開かれていなかった新市場建設協議会が開かれ、ここでは「現在地再整備は不可能であり豊洲移転を早期決定すべきだ」と都への批判が集中した。

 

そして現在地再整備を希望する業界有志によって開かれた18日の集まりは、司会者の議事進行もあって8日の時よりも冷静な意見が多く、「何が何でも豊洲は駄目だとは思っていない」業者の意見も出るなど築地改修案を軸にしつつ「従業員も含めた言いたい意見を述べる場」として評価できる集いになった。

 

この後も正式な市場PTや戦略会議等が開かれ、小島私案の不備が次々に指摘されたが、8日の「皆さんの気持ちがあれば築地改修は出来る」という小島私案によって豊洲移転と築地改修についての築地市場業界の亀裂は決定的に深まった。おそらく、小池知事の方針決定が都議選前だろうが後だろうが、また方針が現在地改修だろうが豊洲だろうが、小池知事の考え方で業界が納得する可能性はほぼなくなったと思う。

 

断っておくが個人的には、豊洲でも築地でも再整備の可能性はあったと思う。

立場によって考え方が違うことは当然であり、例えば築地市場の寿司屋や食堂が築地より豊洲がいいと言わないことは当然だろう。問題は不満があっても豊洲に行かざるを得ないという方向で数十年の紛糾に一応の決着をつけた方針が、豊洲のハードが全面完成した後で、もう一度、豊洲がいいか築地がいいか論議しようという方針を、大家である東京都が言い出した(建前上は都ではなく小島氏の個人的案であるという逃げ道は用意されている)ことで、築地業界が抜き差しならない対立を招いてしまったことである。

 

4月8日の説明会を受けて開かれた11日の新市場建設協議会で伊藤市場協会会長は「現在地再整備は前回も失敗していて不可能だ」と強調したが、それを聞いていた業者が18日の会で「失敗したからもう不可能というのではなく失敗の教訓を汲んで取り組めるのではないか」と発言した。もっともだと思う。小島私案は築地再整備の失敗の教訓をどのように汲んでいるのだろうか。

 

小島私案の築地改修案は「1建築技術的には何ら問題はありません。できます。2かつての築地再整備は右肩上がりを想定した市場、過大でした。適正規模にしましょう。3種地が確保できず、ローリングの回数が多くなれば工期は長くなり費用も高くなります。これで、かつての築地再整備は失敗」と述べている。確かに築地改修は技術的には可能だろう。しかし失敗したのは建築技術の問題でなく業界調整であることは誰もが知っている。小島私案による築地改修案は本当に可能だろうか。

 

小島私案の何より罪深い点は、100店舗以上ある関連棟と加工場ゾーンの業者を場外に出してそこを種地にするという方針である。条例で定められ許可された市場業者の営業許可を改修のために取りあげる。そんな案が築地再整備の第一歩なのである。小島氏は「あなた方が築地で営業を続けたいという気持ちがどれだけ強いかにかかっている」、つまり築地市場で営業を続けたければ市場業者の一部を追い出しなさい、やれなければあなた方の責任だと言っているのである。

 

関連棟の全業者と加工業者を中央区営の場外店舗施設に全店移転させるのは法的にも物理的にも無理だが、さすがに疑問を出した参加者に対して「大丈夫です、築地市場内にはまだ空き地はあります」という信じられない杜撰な答えをしており、とうていまともな検討に値する案ではないが、さらに4月27日に行われた正式な市場PTで小島氏は、青果部は行きたいなら豊洲に行き水産と分ける考え方もあるという水産、青果分離まで唐突に打ち出して青果部の怒りを買っている。言っているご本人もまとまるとは思っていないだろうが、これだけ場当たり的な、思いつきにもならない発言を繰り返すのは一体何が狙いなのだろうか、築地を望むなら都議選で小池新党を勝たせるしかないと言いたいのだろうか。

 

多くの業者・従業員にとって、築地再整備も可能だ、あなた方の気持ち一つだと言われることはうれしいだろうと思う。都の正式な案でなくとも都の組織が多くの業者の直接の声を聞いてくれる場を開いてくれることは従来の都の幹部には求めても得られなかっただけに評価されるだろう。悪いとは思わないが、しかし、この方針はいけない。青果や関連、加工業者に築地市場から出て行けと言えるのか、仲間割れをして誰が得をするのか。築地業界に分断を持ち込むだけの小島私案は誰に対してもメリットはないし、市場の存在価値そのものが問われているときに業界が数十年前の論議に戻る余裕はない。

築地市場が負っている全国市場流通の基幹市場としての自覚を持って欲しいと思う。