取引の透明化めざす「アグリーチ」開始農水産物流通のSCMで付加価値創出

1.アグリーチとは? 

 平成28年度農水省「見える化事業」によるシステム『アグリーチ(Agricultural & Aquatic Products農水産物+ reach広がる)』が4月1日からネット上で公開された。

 アグリーチは昨年来の規制改革会議や農業競争力強化プランで指摘されていた流通効率化の一環として農水産物の取引を透明化する(見える化)するために、農業生産法人等の生産者と卸売市場、それにバイヤーをつなぐためのサプライチェーンマネジメント(SCM)を確立することでバリュー化、付加価値をつけて生産者所得の向上をめざすシステム。

支援法との関わりもあり、当面は農産物流通の効率化が中心だが、水産物、花きも含めたシステムとして活用することが予定されている。

 「公益財団法人 流通経済研究所」が農水省の委託を受けて開発したシステムで、昨年から行われている検討会には私も委員として論議に参加してきたが、当初は全農、卸売市場の委託取引が流通の不透明を招いている要因であるとの問題意識が強かった。その手数料率等の取引条件を透明化(見える化)することで農家の出荷先を自由にできる選択肢を増やし手数料率が実質、横並びとなっている実態の打破につなげようという狙いもあった。

 しかし生産者や卸代表の意見や調査等によって、生産者が手数料率で出荷先を変える可能性はほとんどないことが明らかになった。このため生産者への情報提供という一方通行による手数料率の引き下げではなく、生産者、市場、バイヤーが相互に情報を共有し取引にプラスとなる取引の明確化と透明化を図るネット上の場を提供することが生産者にとっても有利になるとの認識にたったシステム開発を目指すことになった。いわば生鮮食料品におけるサプライチェーンマネジメント(SCM)構築のツールである。

 

2.アグリーチの目的

 アグリーチの目的は次の三点である。

 ①.生産者が自ら価格を決め、自社の経営にとってプラスとなる取引先を選択できるようにすること。

 ②.農水産物を調達するバイヤーが自社のニーズにあった原材料や食材を発掘あるいは連携可能な生産者を発掘すること。

 ③.卸売市場が自社の得意商材や取引情報を公開することで生産者とバイヤーをつなぐ役割や、あるいは生産者と市場卸が連携し「生産者のグループ化」で販売先の開拓に資するようにすること。

 

3.事業者区分

 このシステムを利用する際は、取引にまつわる不透明なトラブルを防止するために、まず自らの企業・団体の情報を登録する。その事業者区分は①生産者、②卸売市場、③バイヤーの三つで次のような業者を対象とする。

① 生産者 個人農家、農業法人、出荷組合、農協の部会、生産者グループ。

② 卸売市場 卸売市場にある卸売業者。仲卸や市場外の卸は「バイヤー」となる。

③ バイヤー 小売業、外食業、旅館・ホテル、食品製造業。市場仲卸、市場外の卸。

 

4.アグリーチの意義

 生産者を中心に市場とバイヤーを結ぶ取引の透明化が、すぐに生鮮食料品の流通を変えることは難しいだろうが、その目指す方向は評価出来るのではないだろうか。

 生鮮SCMはこれまでも流通BMSなどの情報機能整備や物流機能の拡充に取り組んできたが、食品に比べると機能整備は遅れており、オリンピックや輸出振興政策に対応して国内の生鮮食料品の流通も対応が急がれている。

 市場法の抜本的な見直しによって市場取引、施設整備のあり方も大幅に変わることになるだろう。SCMのなかでどのように付加価値を付けるかがバリューチェーンだが、そのためには川上の産地から川下の小売までスムーズな流通をはかるキーマンの役割を卸売市場が果たしていくためには、産地と一体となって川下への販売力を強めることである。そのために取引の透明化を進めることによって産地生産者と川下バイヤー双方の信頼を得る一つの場として、ネット上での取引の場を広げるアグリーチの試みは市場にとってもメリットが出てくるのではないだろうか。