寒さは美味しく美しい

2月の寒さは覚悟のうえですが、3月は暖かい日があるためか、寒い日はひどく寒く感じます。私は春も秋も好きですが問題は夏と冬です。今は2月ですから夏の方が暑くても冬よりいいと思いますが、夏になれば冬の方が好きになると思います。凡夫の悲しさです。光源氏のように、万㎡の土地を4つの町に分けて春夏秋冬の植栽で飾り、4人の女性が春の君、夏の君として住めば解決しますが、けしからんと思います。

 寒さが美味しさや美しさを育てることはよく知られています。寒暖の差が大きいほど果物や野菜は甘みを増し、紅葉を一層美しくし、魚も動物も栄養を蓄えます。

 人も同じです。雪の季節に秋田駅前を歩いていた若い女性の顔は、イチゴを葛で包んだように、透明に、ほのかに紅くなっていて、色白という言葉は舞妓さんのような「白」ではなく透明なことを言うのだと分かりました。もっと近くで長く見たかったのですが、実行したら犯罪です。賢明にも思いとどまりました。

 春先になると一斉に命の躍動が始まります。3月の食材は山ほどありますが、私はさばが好きです。煮ても焼いてもいいし、しめさばも最高です。

 ところがこれだけ好きなのに、よくあることですが、その思いは相手に伝わらず、さばにはつらい仕打ちをうけています。 

 魯山人は、若狭小浜の春秋のサバが日本一で「東京市場の近海サバは関西物のような好ましさがない、段違いのやくざものである」、「サバを語らんとする者は、ともかくも若狭春秋のさばの味を知らねば、さばを論じるわけにいかない」と、東京近海のさばが聞いたら怒りそうなことを書いています。しかしグルメの本家がおっしゃるのです。小浜のさばを食べました。駅前のさば街道にある商店街の店先で焼いている串焼きの大羽のサバとおにぎりを買い、町中を歩き、公園のベンチに座って本を読み、サバを食べ、炭酸水を飲みました。昼食です。残りはゴミ箱に捨てましたが、たちまちカラスが飛んできてビニール袋を破り、ゴミを散乱させながらさばを突き始めました。後悔してももう遅い。小浜市の環境破壊を防ぐために取り上げようとしてにらみ合いになりました。しかし私は、自宅近くの公園で、突然、急降下してきたカラスに頭を突かれたことがあり、カラスが怖い。目をそらしたのは私です。

 小浜で食べたさばと魯山人のさばとはグレードが違いすぎます。気を取り直し、5千円近い、私には、とんでもなく高いさばの棒寿司を頑張って京都で買い、高島屋の大階段に座り夕食にしました。しかし、さば寿司の費用を浮かすためにサウナに泊った報いか、あるいは押し寿司を1本丸ごと食べるのは量が多すぎたのか、胸焼けがとまりませんでした。さばには数々のつらい思いがあります。